毎日多くの電話問い合わせに対応するコンタクトセンターでは、テレワークの導入が難しい。新型コロナウイルスの流行が問題となっている現在においても導入に踏み切れていないケースが少なくない。しかしチャット問い合わせやFAQ連動型チャットボットの導入により、全社テレワーク化を実現している企業が存在している。

今回はZendesk(ゼンデスク)を導入し、限られたリソースでもコンタクトセンターのテレワーク化を実現している、ソニービズネットワークス株式会社(以下、SBN)の國分康平氏にお話を伺った。

クラウド勤怠管理システム「AKASHI」を提供

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(出典:ソニービズネットワークス株式会社

SBNは、ソニーグループの中で主にBtoBのクラウドサービスを展開している企業だ。アマゾンウェブサービス(AWS)の管理・サポートサービスや法人向けのインターネット回線「NURO Biz」、クラウド勤怠管理システムなどを提供している。

その中でZendeskを導入しているのが、クラウド勤怠管理システム「AKASHI(アカシ)」だ。AKASHIのコンセプトは「すべてにおいて簡単に」。

國分氏:「前提として、ユーザー様がシステムを簡単に利用できることが大切です。
勤怠管理システムは、給与計算ソフトや会計ソフトと異なり、担当者だけではなく各従業員の方も利用するシステムです。管理者だけではなく、従業員の方にとっても簡単に確認でき、見やすいシステムであることを意識して設計しています。」

AKASHIの画面設計はゲームアプリやECサイトのデザインを参考にしている。多くの人が日常で使用しているシステムと変わらず、直感的に操作できるような導線を設けている。そのため、勤怠管理の担当者だけでなく、各従業員が使いやすいシステムとなっているのが特徴だ。

コンタクトセンターの完全テレワーク化は可能!ソニービズネットワークスのZendesk×テレワーク事例

(出典:AKASHI

國分氏:「管理者にとって操作性がよいことはもちろん、サポートが気軽に、簡単に利用でき、クオリティーが高く、専門性の高い質問にもカジュアルに対応できるものにしていきたい、という思いがありました。

勤怠管理システムは非常に専門的な機能が求められます。最近では少しでも法令に違反すると、ブラック企業と呼ばれてしまい、非常にセンシティブなものとなっています。勤怠管理システムはサポートやシステム設計についてシビアに見る方が多いです。」

AKASHIは、2005年に提供を開始した勤怠管理システム「インターネットタイムレコーダー」を前身としている。クラウドサービスがまだ一般的ではなかったころから、クラウド型勤怠管理システムを展開していたこともあり、提供開始当初は競合が少なく、自然と新規ユーザー数は伸びていった。

ビジネス課題

気軽に、かつ専門性の高い質問に対応できるように、チャット導入を決定

しかし2014年頃から新規の純増が鈍り始めた。勤怠管理システムの市場は年々拡大しており、縮小していたわけではない。

國分氏:「競合サービスと比較して要因を分析した結果、ソニーとしてのブランド力や、社労士の先生・営業担当のサポートに対しては非常に高い評価をいただいていました。しかし、使いやすさ・開発スピード・導入が容易か否かという面においては、まだまだ改善の余地があることが判明しました。

また、部署間での情報格差や連携がスムーズでなかったことも問題点の1つです。

この問題を解決すべく、2016年の5月にインターネットタイムレコーダーをAKASHIにリニューアルすることにしました。

AKASHIを開発する際、「お客様と共に成長していくグロースハック型のシステム」というコンセプトを掲げ、開発・連携をスムーズにするため、縦割りの組織からユニット型の組織に変更しました。

結果、スピード感を持ちながらユーザー様の声を反映させていくことができるようになったのです。」

マーケティングを担当していた國分氏を中心に、メンバー間でAKASHIユーザーのペルソナとカスタマージャーニーマップを作成した。

AKASHIユーザーのペルソナとして

  • 普段からスマホを使ってチャットで問い合わせをすることがある
  • システムとはいえどデザインや機能性に遊び心を求めている
  • 非常に多忙である
  • 自分の都合のいいタイミングで質問でき、かつ早いレスがあることを重要視する

という人物像を設定した。普段からオンラインチャットによる情報提供や、チャット問い合わせに慣れ親しんだ生活を送っている現代的な人物像といえるだろう。

しかしインターネットタイムレコーダーで用意していたサポート窓口は電話、メール、営業サポート、問い合わせフォームのみ。基本的には電話、メール、営業訪問という形でサポートしており、チャットには対応していなかったのだ。

國分氏:「様々な法人向けサービスを展開している中でも、AKASHIへのお問い合わせが多くを占めています。要因としては、非常に専門性が高く、コンプライアンスの問題が関わってくるため、お問い合わせが他サービスに比べて多くなってしまうのです。

その1つ1つを、オペレーターや営業担当者が対応するには限界があります。気軽に、かつ専門性の高い質問に対応できるようにしよう、というのがチャット導入の経緯です。」

サービス内容

操作性と情報連携のしやすさでZendeskを選択

複数のチャットサービスを比較検討し、実際にトライアルも利用してみたが、求めるような操作性や情報連携のしやすさを持つサービスはなかなか見つからなかった。そこで知ったのがZendeskのチャット機能だった。

國分氏:Zendeskであれば、ヘルプデスクの窓口として、チャットはもちろんのこと、電話、メール、問い合わせフォーム、FAQなどの複数チャネルの利用ができました。また、それらが既存のコンテンツと連携できることが魅力的でした。

対応時間は短縮できますし負荷分散もできます。実際にトライアルの段階でメンバー間から「他製品とは全然違うね。いいよね」という声も多く聞こえました。

さらにAKASHIとZendeskのUIが非常に似ていたのもわかりやすかったです。実際に操作することの多いコンタクトセンターのメンバーにも、マネージャー陣にもわかりやすかった、という点は非常に大きかったかなと思います。

Zendeskを選定した理由として、國分氏は以下の6つのポイントを挙げた。

  • すべてウェブ上で完結できる
  • 顧客の一元管理が可能
  • リアルタイム通知や社内メモ機能によりユニットメンバー間での情報共有が容易
  • ヘルプセンターと連携活用できる
  • 訪問者状況がリアルタイムで把握できる
  • 他システムとの連携が可能

國分氏:「他システムとの繋ぎ込みが可能というのも選定理由としては大きかった部分です。

弊社のオウンドメディア「somu-lier〔ソムリエ〕」で潜在顧客のリードを獲得し、それをSalesforceに登録して、トライアルから本申し込み、その後のチャット対応やチケット*¹対応履歴をすべてZendesk上で管理しています。ユーザー様との接点がすべてZendeskで完結でき、キャンペーンや操作の案内もトリガ*²を発動させてご案内できます。」

*¹お問い合わせのこと
*²Zendeskの機能の一つである条件設定のこと。自動でメール送信、担当者・ステータスの変更等が可能

1年半でお問い合わせの9割がチャット経由に

実際にZendeskを導入してから、どのような変化が見られたのか。大きな変化としては、問い合わせ窓口の利用内訳が大きく変化したことだと國分氏は言う。

▼AKASHIのチャット画面

コンタクトセンターの完全テレワーク化は可能!ソニービズネットワークスのZendesk×テレワーク事例

國分氏:「AKASHIのリリース当初、2016年6月はおよそ半数がWebフォームからのお問い合わせで、チャットからのお問い合わせはごく少数でした。

それから約1年半でチャットからのお問い合わせが半数を超え、今はテレワーク下で電話窓口を閉じたこともあり、9割強がチャット経由です。

やはりチャットで質問したときのスピード感、簡単に解決できるという体験を経たことによって、チャットからの問い合わせが増えているのでしょう。」

SBNでは現在、全社一斉でテレワークを導入している。

ユーザーも同じように、テレワークの環境で電話でのサポートを受けられないことが当たり前になってきており、チャットで質問してチャットで返答することがスタンダードになってきていると國分氏は言う。

國分氏:「私は、もともと「必ず会って話さなければいけない」ということに懐疑的でした。今まで会って話すことを重視していた方たちでも、その意識がどんどん薄れていってるように思います。オンラインコミュニケーションで事足りる経験をしたことで、多くの方がオフラインコミュニケーションに疑問に持ち始めているのかなと思います。

AKASHIのみならず、普段使っているシステムやECサイトなど、日常生活においてチャット問い合わせが普及しました。緊急性や専門性の高い質問は電話で、テクニカル的な内容や単純な不具合であればチャットで問い合わせるという、問い合わせ手段の切り分けの上手なユーザー様が増えていると感じます。」

 

「ただ、ユーザー様がAKASHIに対して期待するものがあり、どうしても気持ちを伝えたいというケース、担当者に理解してほしいというケースに、電話で対応できるようにしておくことも大切ですね」と、國分氏は複数チャネルを持つことの重要性についても触れる。コンタクトセンターの完全テレワーク化は可能!ソニービズネットワークスのZendesk×テレワーク事例

國分氏:「現在、機能開発のリリースは1週間に1度ほどを維持できています。同時に「開発した=それに対するお問い合わせが非常に増える」ということでもありますが、チャットでの対応ができています。

会社としては、限られているリソースの中でチャットやヘルプセンターを導入、構築できたという点が非常に大きかったなと思います。進捗状況がリアルタイムで把握できるようになったことで、コンタクトセンターが遠隔地であっても、現在の状況が分かるようになりました。現場の負荷が少し大きくなっているから分散しよう、ヘルプに入ろうというように、すぐに判断できるようになっています。

実務担当者の声としては、カジュアルに質問してくれるユーザー様が増えたと聞いています。「お世話になっています……」といった堅苦しいやり取りがなくても、ある程度の関係値をつくれたユーザー様に対してはこちら側もラフに対応できるし、ユーザー様も安心して質問してくださります。

また、チケットごとにタスク管理ができることが非常に便利ですね。以前はExcelなどで管理していましたが、現在はWeb上ですべてのタスク管理ができています。

ヘルプページが容易に作れる点もいいですね。ブログを書いた経験がない人や、制作のスキルがない担当者でも、直感的にページを作成することができ、更新も簡単です。」

成果・今後の取り組み

ZeQ経由でZendeskサポートとのやりとりも円滑に

Zendeskの導入当初は、日本でのサポートにおいて少々不満な点もあったというが、5年経ってサポートも充実してきており、現在は大きな問題もなくZendeskを利用できているという。

國分氏:ZeQさんが間に入っていただいたことにより、Zendeskサポートとのやりとりが円滑になった点も非常に助かっています。また、手前味噌ながら「AKASHIのチャット問い合わせはレスポンスが非常に早い」と感動されたユーザー様が、他の方に口コミで広めてくれています。実際のユーザーだけが投稿できるIT製品のレビューサイトでは、殆どの方がAKASHIのサポートを高く評価してくださっています。口コミを見て、実際にサポートを利用し、「本当に早い」と実感してくれるという循環が生まれています。それを実現できているのがZendeskですね。

AIやAmazon Connectとの連携に加えて、顧客が自己解決できる仕組みも

SBNでは、オプション機能や新規機能の導入にも積極的だ。2020年3月現在、チャットサポートのやりとりをAIがリアルタイムに自動学習し、オペレーター向けに回答補助を行うZendesk連携アプリケーション「SCHATTI(スチャッティ)」を試験的に導入しており、4月からの本稼働に向けて動いている。

國分氏:「新規採用してもなかなか教育時間がなく、育つまでにかかる時間も膨大です。その結果、スキルが特定の1人に寄ってしまっている部分もあります。AI回答補助のSCHATTIに、ベテランオペレーターの回答を学習させることにより、教育の補助に役立てることができればいいなと思います。回答速度はもちろん向上しますし、人的コストの削減について、期待を持って導入を進めている段階です。」

また、Amazon Connectとの連携による情報共有の円滑化にも積極的だ。

SBNでは、2020年3月2日から全社一斉に完全テレワークに移行している。一方で、コンタクトセンターについては段階的にテレワークを進め、電話窓口を閉じてチャットに移行したのは3月28日、完全テレワーク化できたのは緊急事態宣言発令の1週間ほど前だった。

電話窓口を閉じたものの、電話のニーズは非常に高く、テレワーク下においても完全に電話をゼロにすることは難しい。そこで電話とWebで、問い合わせの内容を一元管理できる環境を構築することになった。Amazon Connectと連携ができるZendeskであれば、電話の内容をZendeskに反映し、共有することは容易だ

コンタクトセンターの完全テレワーク化は可能!ソニービズネットワークスのZendesk×テレワーク事例

(出典:https://cevo.com.au/post/the-good-bad-ugly-amazon-connect/ 

 

國分氏:「最初にコンタクトセンターを完全にテレワーク化したときに上がってきた課題は、隣にいるメンバーにすぐに確認することができなくなる、という点でした。コンタクトセンターでは営業時間中、ずっと隣に同僚がいて「これどうしたらいいでしょう」とか「ここってこの回答でいいですよね」「こういう回答にしよう」というように直接相談することができます。

今はZendeskを使ったWeb上での情報共有にだいぶ慣れてきていて、社内メモ機能で共有したり、対応履歴を確認するためのミーティングを週に1回開いたりしています。電話の内容は対応した人にしか分からない点もありますが、それをAmazon Connectで繋げて全て共有することができるようになりました。

過去のコンタクトセンターでは、営業時間外の18時以降も残務作業がありました。現在は電話がほぼなくなって、チャットだけで完結できるようになったので、ほぼ定時で切り上げることができています。」

またZendeskの導入は思わぬメリットも生んでいる。電話によるお問い合わせ窓口ではフリーダイヤルを使用していたが、テレワークでチャット対応に切り替えたことで、電話料金を大幅に削減することができたという。

 

國分氏:「やはりチャット問い合わせが非常に多くなってきており、手厚いサポートはもちろん大切ですが、一方で、可能な限りユーザー様で自己解決していただくような仕組みをこの1年間ずっと模索していました。

FAQ連動型チャットボット「GuideBOT(ガイドボット)」は、選択式で回答を出すため、ユーザー様がある程度自己解決できます。ユーザー様が抱えている問題をチャットボット上でわかるようにしてしまえば、解決できなかった質問をオペレーターが回答するだけです。

また、チャットで問い合わせができる時間帯が平日の9~18時のみで、夜間はチャット問い合わせができません。アウトソーシングで18時から朝の9時まで問い合わせを受け付けるとしたら、コストもかかりますし、専門性の高い質問にはアウトソースでは対応しきれず、現実的には難しい。その点もチャットボットを利用すればある程度解決できるのではないかと考えています。」

AKASHIのリリース当時から現在まで、チャット対応者の人数は増えたが、一方で顧客数については増加の一途を辿っており、非常にリソースを逼迫している。チャットボットである程度回収できる仕組みをつくることが今後の課題だ。

GuideBOTはFAQの大カテゴリ・中カテゴリ・小カテゴリと、階層に連動しており、既存のFAQコンテンツを再利用して設置可能なチャットボットだ。シナリオを組む必要がなく、新しいFAQを作成すればGuideBOTも連動し、二重メンテナンスの必要がない。

解決できなかった場合は有人チャットにつなぐことができ、チャットボットとどのような会話をしたかも把握して対応が可能だ。

Zendeskの新プラン「Zendesk Suite」への期待

Zendeskは2021年2月に新プランである「Zendesk Suite」の提供を開始した。電話、チャット、メール、SNS、メッセージング、ヘルプセンター構築、分析などの機能を搭載している。様々なチャネルでのサポートを求められる昨今のカスタマーサービスに最適なプランだ。

國分氏:「今まで私たちも様々なオプション機能を検討していました。具体的にどんなことができるのか、コストはどのくらいか、どの程度の効果が見込めるのかといった点があやふやで導入に踏み込めないことがありました。

今回の新プランに切り替えることで、今後は基本的にZendeskにすべて集約できるような形をめざしていきたいですね。」

インターネットやスマートフォンが浸透した現代において、チャットによる問い合わせはもはや一般的なものとなっている。電話、メール、Webフォーム、チャットなど、複数の問い合わせチャネルを用意しておくことで、顧客はそれぞれのニーズに合わせて問い合わせ方法を選択でき、企業は必要なサポートを提供できるようになる。

一方で問題となるのは、複数チャネルの管理工数が拡大し、現場の負担になってしまうことだ。しかし本事例のように、Zendeskによって電話もWebも一元管理することで、限られたリソースの中でも複数チャネルに対応することが可能となる。さらにテレワークも導入でき、従業員の働きやすさを改善する一助にもなるだろう。

Zendeskのプラン形態が新しくなり、ますます活用しやすくなっている。特にコンタクトセンターの業務効率化、テレワーク導入に課題を感じている企業担当者は、ぜひこの機会にZendesk導入を検討してみてほしい。

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